ローラースケートで旅をするとはどういうことか, わたくしの考察.
ひとことで表現するならば,「あぶないからやめておけ.」
ローラースケートで北海道を旅したのは わたくしが初めてではない.
宗谷岬のみやげ物屋のおばちゃんはこう言った.
「ときどきいるね,そういうひと.」
他にも何人かの証言をもとに推測すると, だいたい,年に一人くらいはいるんじゃないだろうか. 本当かどうか知らないが,日本一周した人もいるらしい. 成功したのかどうか知らないがオーストラリア一周を試みた人もいるらしい.
それでも,「めずらしい」「目立つ」ことはたしかだ. よく,声をかけられる.
わたくしは荷物をカートに載せ 後に引きずって走った.
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証言によれば他のひとはバックパッカースタイルにローラースケート, というスタイルが多いらしい.
カート式とバックパッキング式,どっちがいいかは,さてどうだろう.
○荷物がすこしくらい増えても平気
○転ぶときに荷物に押しつぶされない
×両手がふさがる
×急な方向転換ができない
×体をひねるブレーキングができない
×カートが転倒すると人間も転ぶ
×カートより幅のせまいところはとおれない
×階段や未舗装路は苦手
両手がふさがるのがカート式最大の欠点か. 片手ではなく,両手でカートを引っ張る必要がある. 体を左右に振るので片手ではうまくバランスが取れないのだ. 転ぶときは顔が地面にぶつかる前に両手をつくことができるので よっぽどにぶい人でなければ問題ない.
カート式がどの程度「いい」か,というのは, そのカートがどの程度「いい」かということでもある. よいカートが手に入らなければカート式を選ぶべきでないと思う. わたくしが選んだビーチローリーというカートはエクセレントであった. 後ろで勝手に転ぶこともほとんどなく,安定感があり, たいていの悪路も走破した.
バックパッキング式は自分でやったことがないので これ以上,論評できない.
荷物が軽かったら, わたくしも背中に背負うだろう. 両手を完全に自由にした場合と, 両手にトレッキングポールを持った場合とを 試してみたいものだ.
ホテルや民宿を使うなら,次の宿への荷物の運搬は宅配便を使うという手がある. きちんと計画をたて,きちんと宿を予約すれば難しいことではないが, いきあたりばったりな旅はできなくなる.
サポートカーについてもらうのはどうだろう. 車で荷物を運んでもらうのだ.ねぐらの確保なども車の人にやってもらう. つきあってくれる仲間がいればの話だが.
一日に 40km くらい.半日なら 20km.
自転車なら一日 100km くらいすすむというから, スケートは自転車の半分か 3分の1 くらいのスピードしかでないということになる.
上り坂やトンネル,雨天などはスケートを脱いで 歩かなくてはいけない. 決して効率のいい移動手段とは言えない.
キャンプ場から町まで 1km もあると 「買い出し」に行く気もおきない.
筋肉痛はたいしたことない.ほとんどない. 走り方によるかもしれないが, わたくしの場合は体を左右に体重移動するだけで 前進していたのでキックらしいキックはほとんどしない. 平地なら早歩き程度のエネルギー消費.
たいへんなのは,靴擦れ. 靴擦れがひどくなると前進できなくなる. 靴擦れ対策にあけくれる毎日. 擦れそうなところにあらかじめばんそうこうを貼っておくとよい.
それから,日やけ.甘く見てはいけない.痛いぞ.日やけどめは必携.
水を忘れるな! 脱水症状は怖いらしいぞ(よく知らないけど). 田舎では人家も自動販売機もない道が数十キロ続くのはめずらしくない. 毎朝,出発時に 500mL のボトル 2 本に水を詰めていく.
ケガをすると旅の途中ではなかなか治らない. 転んでケガをしないように防具はきちんと装着すべし.
虫歯は旅に出かける前に治療しておこう.
当然ながら,自分の足型にあったスケートを選ぶべき. あわないと痛い.靴擦れもおきる.
インラインスケートにもいろいろ種類があるが, もっとも一般的な「フィットネス」と呼ばれるタイプがよい. アスファルトの上を走るだけなら「レーシング」と呼ばれるものが 最もよいらしいが,レーシングタイプにはブレーキがついていないのが普通だ. 公道の下り坂ではブレーキは必須だと思う.
分類 | 特性 |
普通のタイプ(フィットネス) | ごく普通のインラインスケートは「フィットネス」と呼ばれる. スピード重視のものは「パフォーマンス」と呼ばれることもある.少し高価だが旅にはこれが向いている. 安価なものは「レクリエーション」と呼ばれることもある.これでもよい. |
レーシング | スピードが出る.片側 5 輪を備えるものが多い.たいていブレーキがないので公道には向かない. |
ホッケー | スピードと旋回性能を兼ね備える.ホッケー用のホイールは「インドア」用と「アウトドア」用がある.インドア用をアスファルトで使ってしまうとすぐに磨り減る.アウトドア用なら旅に使えると思う. |
アグレッシブ | 「ストリート」とも呼ばれる.ジャンプやグラインドなどのスタント的な技を競う.スピードは出ないので旅には不向き. |
その他 | 「オフロード」はサスペンションがついているモデルもあり,旅によさそうに見えるかもしれないが,スピードが出ないので不向き. |
種類も何もわからない人がこれからお店へ行って旅用にスケートを買うのなら, 「直径 80mm のホイールがついていて, 右足にブレーキがちゃんとついているもの」を選べば間違いない. どのモデルも左足にはブレーキはつかない. ホイールの直径は 78mm, 76mm くらいまでなら OK だろう.
ブレーキはローラーブレード社の「ABT」が最も安定感がある. すべてのホイールが接地した状態でブレーキがかけられるのが ABT の特長. ABT にもいろいろ種類があるようだがどれでもよい. 下り坂でブレーキを使うのですぐに磨り減る. 予備のブレーキパッドを持っていくとよいと思う.
サスペンションは不要. 将来はいいものができるかもしれないが, 西暦2000年現在,スケート用には実用的なサスペンションはない. いまのところ人間のひざに優るサスペンションはない. 本当の気持ちを言うと,サスペンションは欲しい! んだけどね.
(わたくしが北海道で使ったローラーブレード.4 つの車輪の後にある黒いゴムのかたまりがブレーキ.)
チューニングは「スピード重視」. 速いスピードをだせるということは, 言いかえれば「つかれない」ということである. 実際に走るスピードが同じでも,「スピード重視」のチューニングのほうがつかれない. チューニングといってもいじるところといえばホイールとベアリングの交換, ロッカリング位置の調整くらいだが.
ホイールは大きくて硬いものがスピードがでる. わたくしが選んだのは,直径80mm,硬さ82A. 軽いホイールならさらによい. 「レーシング」用のホイールがよいようだ. スケートによっては大きいホイールは 装着できない場合があるので注意. 店員さんに相談しよう.
ベアリングはメンテナンスフリーに近いものを選ぶ. 両面 sealed,もしくは両面 shielded ※がよい. 潤滑剤はグリースがよい. ABEC レーティングの数値は,はっきりいって,関係ない. わたくしが使った NiNjA の Mini-Miser というベアリングは軽いの長所だが, グリースではなくオイルで,しかも片面 shielded だったのですぐにまわりが悪くなってしまった.
ロッカリングはスピード重視の「フラット」. もしくは「フロントリフト」かな.
※ なぜか日本では sealed bearing を「シールベアリング」と呼び, shielded bearing を「シールドベアリング」と呼ぶ. まぎらわしいぞ.
荷物は軽くしなければならない. これには常に悩まされる.
必要になったものを現地調達しようと 思っても,「ファミリーむけ」の大きな パッケージしか売っていなかったりする.
軽い道具は軽量化のために「なにか」を犠牲にする場合がある. テントの場合は広さ,寝袋の場合は保温性, マットの場合は断熱性,コンロの場合は耐風性. 現地で使って初めて犠牲にしたなにかが必要だと気づく, そんなことのないようにしたいものだ.
むやみに高価な道具を買っていくと, 必要なくなっても捨てるに捨てられない. いるかいらないかわからないようなものは, 惜しげなく消耗品のように捨てられる安物が よい,のかもしれない.
軽量化のために安全性を犠牲にしてはいけない. 防具を切り捨ててはいけない.
汗を吸ってすばやく乾く,「Wick & Dry」なやつを選ぶ. T シャツや下着類は木綿ではなく化繊にする.
自転車用品店と登山用品店で選ぶとよい. ただし,登山用だと「保温性」や「クッション性」を 重視したものがあり,そういうのは厚手にできているので洗濯した後の乾きが遅い.
日よけのため,長袖のほうがよいと思う. 半そでなら,日焼けどめクリームを忘れずに塗る. 塗り忘れがちなのは首の後ろと耳. リップクリームも忘れるな.
首にタオルを巻くと汗を吸ってくれる上に日よけにもなってよい. ダサいような気がするかもしれないが気にするな.
雨が降りそうでなくともカッパを持っていくとよい. 雨以外にも,防風,耐寒,日よけ,虫除けのため. 傘は片手がふさがるのでカッパのほうが合理的. カッパの布地は GORE-TEX に代表される「透湿」素材が 蒸れにくくてよい.
色は明るくて派手なものを選ぼう.交通安全のため.
防具は必ず着用. 安全のためにはダサいとかカッコ悪いとか似合わないとか言っていられない. 着用したら,ずれないように気をつける.
わたくしはテントと普通の宿を使った.
毎日,普通の宿に泊まれば,テントを持っていかなくてもすむので軽量化できるはずだ. でも,予約なしでは泊まれないことがあるし, 予約しても転んでケガでもすればその日の内にたどりつけないかもしれない. そんなことを考えると,やっぱりテント.
キャンプ場は無料のところもあれば千円以上とられるところもある. 北海道のキャンプ場はよそにくらべると安いそうだ.
宿には事前に電話で予約を入れるのが常識的な行動らしいが, いきなりいってもだいたい,なんとかなった. 午後3時ころをすぎてから飛びこむと夕飯なくてもいいか?といわれる. 観光シーズンが始まると予約なしではむずかしくなる.
宿に電話で予約をいれるとき,「何名さまですか?」とたずねられ, 「ひとりです」とこたえると,「満室です」と,ことわられることがある. ふたりなら満室ではないらしい. あとで知ったのだが,こういうときは地元の「交番」で宿の紹介をしてもらうといいそうだ.
北海道には相部屋で安く泊まれるところがたくさんある. オートバイの旅人がよく利用するので「ライダーハウス」と呼ばれる. 自転車や徒歩の旅人の利用も多いらしい. 安く泊まれる以外に,いろんな情報,たとえば次に泊まるべき宿の情報が得られるなどのメリットがあるそうだ. わたくしはそういうところは利用しなかった. なぜなら,とっとと寝たいから.
北海道のバス停は雨風雪がしのげるように,小屋になっている. しかもバスはめったにこない. 自転車の旅人がよくバス停に泊まるそうだ. わたくしも一度はバス停に泊まってみたかったが機会がなかった.
日本には 20km から 40km にひとつは,必ずといっていいほど温泉がある.町おこしのために無理やりでも温泉をつくるのだ.
温泉街に銭湯がない場合でもたいてい,どこかの温泉宿が「日帰り入浴」をさせてくれる.
キャンプの旅でも,温泉めぐりをするつもりでいけばお風呂にはいれない日はあまりない.
なかなか洗濯は難しい. 同じ服を何日も着ることになる.
たとえば銭湯の洗面器で手もみ洗い.乾かすのに時間がかかる.晴れた日は洗濯日和.
いなかでは乾燥機を備えたコインランドリーにはなかなかお目にかかれない.
コンロや鍋,食材などを持ち歩くのはかなりの荷物になるのでおすすめとは言えない.コンビニエンスストアで食べ物を買うのが現実的といえる.
キャンプ場では自炊をする人をよく見かける. そういう人たちに近づくと,たいてい,食べ物をわけてくれる. ひとりぶんより多めに作ってしまったり, あるいは食材がいたむ前に処分したいので, もらってくれたほうが助かるらしい.
街道沿いのラーメン屋やら定食屋などに「はずれ」はつきものだが, 地元ナンバーの車や自転車が停めてあるところがはずれが少ないと考えられる(仮説).
「そういうことできるのは若いうちだよね.」
と,よく,言われたが,そんなことはないと思う.
実際,中年の自転車旅行のひとやら, 年金暮らしの放浪の旅人やらに, たくさん,会った.
何歳でも,やればできる.やる気の問題.
「おれも金とひまがあればなあ」
金やひまの問題ではない.やる気の問題.
雨,向かい風,上り坂,急過ぎる下り坂,悪路, 強すぎる陽射し,脱水,パトカー.
路上の小石,毛虫,かたつむり,犬の糞,サイクリストが捨てていったバナナの皮.
最大の敵は靴擦れだな,やっぱり.
ローラースケートは,あぶない.
急に止まることができない. 転んだらすぐに起きあがることもできない. 荷物があると急に曲がることさえできない.
目は常に数メートルから数十メートル先の 路面状態をチェック. 耳は常に背後からの車の音をチェック. 脳はつねにラインどりのシミュレーション. 精神的にかなりハードだ. 睡眠不足は命取りになりかねない. 景色を楽しむ余裕があるのは最初だけ.
上り坂ではなかなかこけない. 下り坂や,なんでもないところでこける.
夜は走らない.
トンネルの中は靴に履き替えて歩く.ライトや反射テープなどを身につけると理想的.
できるだけ歩道を走る. 車道を走るときは,車が近づいたらはじによっておとなしくする.
お酒を飲んで走るのはやめたほうがいい. バランス感覚がなくなると,転んだときにとっさに手をつくことができない. アスファルトが顔面にせまっていることは目で見て認識しても,脊髄反射で出るべき手が出ない. バランスを崩したことを知覚できないから脊髄反射がおこらない.
(わたくしは実際にローラースケートの飲酒運転で転んだことはありませんが, 自転車の飲酒運転で転んで前歯を欠いたことがあります. 歯医者で 6030 円の治療費をとられました.)
法律の上ではローラースケートは「移動の手段」としては,特に触れられていない.
一方,「遊び道具」としてのローラースケートは 交通をさまたげるもの として記されている.
第七十六条
4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。
三 交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。
罰則は「5万円以下の罰金に処する。」
交通が「ひんぱん」かどうかを誰がどういう基準で判断するのかはあきらかでない. 裁判のときに個別に判定がくだされるのだろう.
繰り返しになるが, この法律ではローラースケートは「移動の手段」として扱われておらず, 「遊び道具」という扱いになっている.これは法律の欠陥といえる.
たまに,「ローラースケートは禁止」と,嘘をいうおまわりさんがいる. 北海道だけではなく全国,どこにでもそういう嘘をいうおまわりさんはいるらしい. そんな法律や条例はない. 彼らは悪意があって嘘をついているのではなく, 相手のためを思って嘘をついているのだ,と,思いたいところだが, たぶん,わが身がかわいくて言っている. 事故でも起こされたら面倒なことになるからだ.
「敵」の項目でパトカーをあげたがあれは冗談で,本当は敵にまわしてはいけない. 警察は味方につけるべきだ. この法律を盾にあなたのじゃまをするものがいるとすればそれは警察でも裁判所でもない. あなたの本当の敵は保険屋だ. 仮に,あなたがローラースケートで事故に巻き込まれたとする. あなたに責任があろうとなかろうと, この条文を根拠に保険屋は保険金の支払いを拒むかもしくは減額するだろう. その法解釈は間違っている,と指摘しても,それを証明しても, 保険屋は自分に都合のよい解釈を決して曲げることはない. 彼らに正しい法解釈をさせるには,彼らの上司を呼び出して説得するしかない. 話の通じる上司なら,警察の言うこともきいてくれる. だから警察は味方につけておいたほうがいい.
(ここで書いた保険屋の話は,わたくしがまさにそういう体験をしたということではありません. 似たような体験と人から聞いた話をもとに予想される,「もしも」の話です.)
くれぐれも事故には気をつけて.事故にあったら,保険屋に気をつけて.